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こんにちは。メガネコンパス、運営者の「Syo66」です。
ヴィンテージの眼鏡って、単に「古いもの」という言葉では片付けられない、特別な引力がありますよね。
そのフレームが製造された時代ごとの空気感や、当時の職人たちが込めた技術、そしてアメリカという国の歴史そのものが、小さなアイウェアの中に凝縮されているからだと思います。
特に、現存する最古の眼鏡メーカーの一つである「アメリカンオプティカル(AO)」は、コレクターにとって別格の存在です。
でも、いざ憧れのヴィンテージAOを手に入れてみようと探してみると、ふと立ち止まってしまう瞬間がありませんか?
「このフレームは一体いつ作られたものなんだろう?」「ショップの説明には1950年代とあるけれど、本当に正しいのかな?」「復刻版とオリジナルの見分けがつかない……」そんな疑問や不安を抱くのは、あなただけではありません。
私自身、ヴィンテージの世界に足を踏み入れた当初は、情報の海に溺れそうになりながら、必死に手がかりを探したものです。
実は、アメリカンオプティカルのフレームには、その出自を語る「無言の証言者」たちが隠されています。
たとえば、ブリッジの裏側にひっそりと刻まれた微細な文字、ロゴマークの微妙なデザインの違い、あるいはノーズパッドの素材感。これらをパズルのように組み合わせることで、私たちはそのフレームが生まれた年代を、ある程度の精度で特定することができるのです。
この知識を持つことで、あなたの眼鏡選びは「ただの買い物」から「歴史の発掘」へと変わるはずです。
今回は、私がこれまでに収集してきた膨大な資料や、実際のコレクションから得た知見をもとに、アメリカンオプティカルの年代判別方法を徹底的に、そしてわかりやすくシェアしていきたいと思います。専門的な知識がなくても大丈夫。
この記事を読み終える頃には、あなたもきっと、フレームに刻まれた歴史の暗号を解読できるようになっているはずです。
- ロゴのデザイン変遷から読み解く、製造年代の具体的な特定手順
- 「1/10 12K GF」という刻印に隠された、AO黄金期の品質基準と素材の秘密
- JFKが愛したサラトガや、月に行ったオリジナルパイロットなど、名作モデルの真贋鑑定ポイント
- 古着市場で人気のセーフティグラスにおける「Z87」規格の落とし穴と製造時期の関係
アメリカンオプティカルの年代判別とロゴの変遷
ヴィンテージフレームの年代を特定するうえで、最も視覚的で、かつ信頼性の高い手がかりとなるのが「ブランドロゴ」と「刻印」です。
1833年の創業以来、AOはその長い歴史の中で、経営戦略や時代のデザイントレンドに合わせてロゴマークを幾度となく刷新してきました。
つまり、フレームや付属品に記されたロゴの形を見るだけで、その個体が「どの時代の空気を吸って生まれたのか」を、大まかに、しかし確実に絞り込むことができるのです。
ここでは、AOの代表的なロゴの変遷を時系列で追いながら、それぞれの時代の特徴を深掘りしていきましょう。
AOロゴとシールドの歴史

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まず私たちが注目すべきは、ブランドのアイデンティティそのものであるロゴマークです。AOのロゴは、単なるデザインの変更ではなく、その時々の企業の立ち位置やメッセージを強く反映しています。
ヴィンテージ市場で最も頻繁に目にし、かつ人気が高いのが「シールド(盾)」のロゴです。
盾の中に「A」と「O」の文字を配置したこの威厳あるデザインは、1943年から1974年までの約30年間にわたって使用されました。なぜ「盾」なのか?
それは、導入された1943年という年号にヒントがあります。
第二次世界大戦の真っ只中、AOは軍用サングラスやゴーグル、照準器などを供給する軍需企業として極めて重要な役割を担っていました。このシールドロゴには、兵士の目を守る「守護者」としての誇りと、愛国的な企業イメージが込められていたのです。
このシールドロゴ時代の中でも、さらに細かい分類が可能です。1943年から1950年代初頭にかけては、広告や公式文書で「American」と「Optical」の文字の間にシールドを配置するスタイルが主流でした。
その後、1951年頃からは「Company」の文字を削除し、シールドを中央に据えた「Institutional Signature」と呼ばれるデザインが登場します。フレーム本体にはスペースの都合上、ブロック体の「AO」のみが刻印されることが多いですが、付属のケースや当時の紙袋などが残っていれば、このシールドロゴの形状が年代特定の決定的な証拠となります。

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| 年代 | 出来事・ロゴの特徴 |
|---|---|
| 1943年〜 | 「シールド(盾)」ロゴの導入 第二次世界大戦中、兵士の目を守る「守護者」としての誇りと愛国心を象徴。 |
| 1943年〜 1950年代初頭 |
初期レイアウト 広告や公式文書において、「American」と「Optical」の文字の間にシールドを配置するスタイルが主流。 |
| 1951年頃〜 | Institutional Signature(インスティテューショナル・シグネチャー) 「Company」の文字を削除し、シールドを中央に据えたデザインが登場。 |
| 〜1974年 | シールドロゴ時代の終了 約30年間にわたり使用された威厳あるデザインの区切り。 |
豆知識:幻の「Wellsworth」時代
シールドロゴが登場するずっと前、1911年から1927年にかけて、AOは「Wellsworth(ウェルスワース)」という統一ブランド名で製品を展開していました。これは多角化していた製品ラインを統合し、品質を保証するための戦略でしたが、ブランド名があまりに有名になりすぎたため、親会社の影が薄くなることを恐れて廃止されたという経緯があります。もし、フレームのブリッジ裏やテンプルに「Wellsworth」の刻印を見つけたら、それは100年近く前のミュージアム級の逸品である可能性が高いです。
そして時代は移り変わり、1974年6月8日。AOは「AOファミリー・デー」において、新しいコーポレート・アイデンティティ(CI)を発表しました。それまでの詳細でクラシカルな盾の紋章は姿を消し、太く、直線的で、幾何学的な「AO」ロゴへと刷新されました。これは現代のロゴにも通じるスタイリッシュなデザインです。つまり、繊細な盾の紋章があれば1974年以前、太字のモダンなロゴなら1974年以降という境界線が、年代判別の大きな分水嶺となるわけです。
1/10 12K GFの意味と金張り
メタルフレームをお持ちの方は、テンプル(つる)の裏側やブリッジの裏面をルーペで拡大して見てみてください。
そこに「AO 1/10 12K GF」という、暗号のような小さな文字が刻まれていませんか?
初めて見る方には意味不明な文字列に見えるかもしれませんが、これはAO製品の品質と年代を語るうえで、最も科学的かつ客観的な証拠となります。
このコードを分解して解説しましょう。
まず末尾の「GF」は「Gold Filled(金張り)」を意味します。
現代の安価なアクセサリーや眼鏡によく使われる「Gold Plated(金メッキ/GP)」とは、似て非なる技術です。メッキが電気分解で極薄の金の膜を付着させるのに対し、金張りはベースとなる合金素材に、高温と高圧で金の板を物理的に圧着させます。
その厚みはメッキの数十倍から百倍近くあり、数十年使用しても剥がれたり地金が露出したりすることがほとんどありません。ヴィンテージフレームが今なお美しい輝きを保っているのは、この技術のおかげなのです。

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次に「1/10」と「12K」です。
これは「製品の金属総重量の1/10(10%)が、12金(純度50%の金)で構成されている」ことを示しています。
実はこれ、当時のアイウェア業界においてもかなりのハイスペックな仕様でした。
他メーカーや、AOでも後年のコストダウンされたモデルでは、「1/20 10K GF」(金の量が半分で、純度も低い)という仕様が一般的になっていきます。
つまり、「1/10 12K GF」という刻印は、AOが品質に一切の妥協を許さなかった1930年代から1970年代の「黄金期」を象徴する刻印なのです。
逆に言えば、この刻印がある限り、そのフレームは大量生産と高品質が見事に両立していた、古き良きアメリカのプロダクトであると断言できます。
ちなみに、さらに古い1930年代以前のフレームには、「10K」や「14K」といった「Solid Gold(金無垢)」の刻印が見られることもありますが、これは現代では数十万円で取引されることもある超希少品です。
AOメタルフレームの鑑定チェックポイント
- 確認する場所
テンプル(つる)の裏側、またはブリッジの裏面をルーペで拡大して確認します。 - 探すべき刻印
「AO 1/10 12K GF」 - 刻印の意味(スペック)
- GF (Gold Filled = 金張り):
金メッキ(GP)とは別物。高温高圧で圧着された金の層はメッキの数十倍〜百倍の厚みがあり、数十年経っても剥がれにくい耐久性を持ちます。 - 1/10 12K:
金属総重量の1/10(10%)が12金(純度50%)で構成されていることを示します。後年の「1/20 10K」よりも豪華なハイスペック仕様です。
- GF (Gold Filled = 金張り):
- 判別できる年代
1930年代 〜 1970年代
※この刻印は、品質と大量生産が両立していた「AO黄金期」の象徴です。 - 【レアケース】さらに古い刻印
もし「10K」や「14K」という金無垢(Solid Gold)の刻印があれば、それは1930年代以前の非常に希少な博物館級アイテムです。
Ful-Vue構造とテンプル
年代判別において、刻印と同じくらい重要なのが「フレームの構造(デザイン)」です。
眼鏡の形状は、ファッションの流行だけでなく、その時代の技術的な発明や特許によって大きく変化してきたからです。
その代表例であり、AOの歴史を語る上で外せない技術革新が、1930年に登場した「Ful-Vue(フルビュー)」システムです。
1920年代以前の眼鏡(通称:サイドマウント)を想像してみてください。丸いレンズの真横、ちょうど中心位置からテンプルが伸びているのが一般的でした。
しかし、この構造には致命的な欠点がありました。横を見ようと眼球を動かしたとき、テンプルとヒンジが視界に入り込み、邪魔になってしまうのです。自動車の運転が普及し始めた当時のアメリカ社会において、広い視野の確保は安全上の急務でもありました。
そこでAOは、テンプルの取り付け位置をレンズの真横から「上部(高い位置)」へと移動させる画期的な設計を開発しました。
これにより、横方向の視界が劇的にクリアになったのです。「完全な視界」という意味を込めて「Ful-Vue」と名付けられたこのスタイルは、またたく間に業界のスタンダードとなりました。

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年代判別のポイントは非常にシンプルです。もし手元のフレームのテンプルがレンズの真ん中から出ていれば、それはほぼ間違いなく1930年以前のアンティークです。
逆に、レンズの上部からテンプルが伸びていて、ブリッジの裏側に「FUL-VUE」という刻印があれば、それは1930年代以降に製造されたものです。
このFul-Vue構造は、後のボストン型やウェリントン型の基礎となり、現代の眼鏡デザインの原点とも言える重要なディテールです。
NumontとRimwayへの進化
Ful-Vueの成功後、AOはさらなる進化を遂げます。1938年頃には、レンズの裏側に一本のバーを通し、鼻側の一点だけでレンズを固定する「Numont(ニューモント)」が登場。
さらに1940年代に入ると、Numontの「レンズがぐらつきやすい」という弱点を克服するため、耳側にも固定フックを追加した「Rimway(リムウェイ)」が開発されました。これらの構造が見られるフレームもまた、1940年代から50年代のアメリカを象徴するプロダクトと言えます。
| 年代 | 構造名称 | 特徴・開発背景 |
|---|---|---|
| 〜1930年以前 | サイドマウント (Side Mount) |
|
| 1930年〜 | Ful-Vue (フルビュー) |
|
| 1938年頃〜 | Numont (ニューモント) |
|
| 1940年代〜 1950年代 |
Rimway (リムウェイ) |
|
ノーズパッドの素材で鑑定
フレーム本体に比べて見落とされがちなのが、鼻あて(ノーズパッド)です。
「消耗品だから交換されているだろう」と思われがちですが、デッドストック品や保存状態の良い個体には、当時のオリジナルのパッドが残っていることが多々あります。
そして、この小さなパーツの素材こそが、製造年代を特定する強力なヒントになるのです。
まず、1920年代から1930年代初期にかけて使われていたのが「ベークライト(Bakelite)」です。

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これは世界初の人工プラスチックで、独特の温かみのある質感が特徴ですが、経年劣化によって色が濃い茶色や飴色に変色しやすい性質を持っています。もしパッドが濃い茶色に変色していて、触った感触が硬質であれば、かなり古い年代のものである可能性があります。
次に、1930年代から50年代の高級ライン(CortlandやFul-Vueの一部)で見られるのが「マザーオブパール(真珠母貝)」を使用したパッドです。
プラスチックには出せない、天然素材特有の虹色の光沢と高級感は、当時のAOがいかに眼鏡を「宝飾品」として扱っていたかを物語っています。
また、同時期には皮膚への腐食やアレルギーを防ぐため、パッド部分のみに10Kの無垢金を使用した「10Kソリッドゴールドパッド」も存在しました。「10K PADS」といった刻印が入っていることもあり、これらは非常にコレクタブルな要素です。
そして1960年代以降になると、現代に近い透明や肌色の「ビニール/プラスチック製」が主流になります。
この時代の純正パッドの特徴として、パッド内部の金属芯(カシメ部分)に「AO」のロゴマークが埋め込まれている点が挙げられます。これは交換用パーツでは省略されることが多いディテールなので、もし「AO」ロゴ入りのパッドが付いていれば、フルオリジナルの状態である可能性がグッと高まります。
| 年代 | 素材 | 特徴・判別ポイント |
|---|---|---|
| 1920年代〜 1930年代初期 |
ベークライト (Bakelite) |
|
| 1930年代〜 1950年代 |
マザーオブパール (真珠母貝) 10K無垢金 |
|
| 1960年代以降 | ビニール / プラスチック |
|
部位別年代判別リスト
ここまでご紹介した様々な判別ポイントを、一つの表にまとめてみました。お手元のフレームを鑑定する際の「チェックリスト」としてご活用ください。

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複数の要素が合致すればするほど、年代特定の精度は高まります。
| チェック項目 | 特徴・刻印 | 予定日 | 解説・備考 |
|---|---|---|---|
| ブランドロゴ | ウェルズワース | 1911~1927 | AO統合前のブランド名。市場に出ることは稀な博物館級アイテム。 |
| ブランドロゴ | AO Shield(詳細な盾) | 1943~1974 | 最も一般的なヴィンテージロゴ。戦時中の「守護者」を象徴。 |
| ブランドロゴ | AO(太字モダン) | 1974~1990年代 | CI変更後のロゴ。現代のデザインに近く、直線的で太い書体。 |
| 金属素材 | 1/10 12K GF | 1930年代~1970年代 | AOの黄金期を支えた高品質な金張り仕様。耐久性抜群。 |
| 金属素材 | アルムニコ | 1950年代~1960年代 | 軽量なアルミニウム製。スペースエイジを反映した鮮やかな発色。 |
| 構造 | サイドマウント(センター) | 1930年頃 | テンプルがレンズ真横に付く古典的スタイル。 |
| 構造 | Ful-Vue(上付き) | 1930年~ | 視界確保のためテンプル位置を上げた革命的構造。 |
| パーツ | ベークライトパッド | 1920年代~1930年代 | 初期プラスチック。経年で濃い茶色や飴色に変色していることが多い。 |
| パーツ | 貝パッド(Pearl) | 1930年代~1950年代 | 天然の貝を使用。高級モデルに採用された美しい光沢。 |
| 安全仕様 | Z87 | 1968年~ | 産業用安全メガネ(セーフティグラス)の規格刻印。 |
モデル別に見るアメリカンオプティカルの年代判別
ここまではAO製品全体に共通するルールを見てきましたが、ここからは特定の「名作モデル」に焦点を当てていきます。
特に、歴史的な背景を持つモデルや、近年復刻されて話題になっているモデルについては、ヴィンテージと現行品、あるいは贋作と本物を見分けるための、より専門的でマニアックな知識が必要です。
サラトガと復刻版の違い
アメリカンオプティカルを代表するサングラスといえば、やはり「Saratoga(サラトガ)」でしょう。
第35代アメリカ大統領ジョン・F・ケネディが、公私にわたって愛用したことで伝説となったアセテートフレームです。
よくレイバンの「ウェイファーラー」と混同されますが、テンプルの形状や全体のスリムさが異なる全くの別物です。
ヴィンテージのサラトガを探す際に、最も衝撃的かつ重要な事実をお伝えします。実は、JFKが着用していた当時のオリジナルモデル(1950年代〜60年代初頭)には、どこを探しても「Saratoga」というモデル名は刻印されていません。

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当時のテンプル内側には、シンプルに「American Optical」という社名と、反対側にレンズの種類(例:「Calobar」や「True Color」など)が記されているだけなのです。
「Saratoga」という名称がフレームに刻まれるようになったのは、ごく後期のモデルや、2020年にAO Eyewearからリリースされた復刻版からです。
つまり、「Saratoga」と書いてあるからといって飛びつくと、それはあなたの探しているヴィンテージではない可能性があります。
では、どうやって本物のヴィンテージを見分けるのか?
ポイントは「ヒンジ(蝶番)」と「リベット」です。
ヴィンテージのサラトガは、堅牢さを極めた「7枚蝶番(7-barrel hinge)」を採用しています(稀に5枚も存在しますが、基本は7枚です)。
これに対し、安価なコピー品や一部の後年モデルは枚数が少なかったりします。
また、フロントとテンプルを繋ぐリベット(飾り鋲)が、立体的で鋭角な「ダイヤ型」であることも重要な特徴です。
さらに、2020年の復刻版は非常に精巧に作られていますが、テンプルの文字が高品質な「プリント」であるのに対し、ヴィンテージは金属に圧力をかけて文字を凹ませる「打刻(スタンプ)」が主流です。指でなぞって文字の凹凸を感じられるかどうかも、新旧を見分ける一つの指標になります。そして何より、ヴィンテージ特有の「デミアンバー(べっ甲柄)」の色味。
黄色と赤のコントラストが強く、独特の妖艶な深みがあるアセテート生地は、現代の技術でも完全再現が難しいと言われる美しさです。
もし、これらの年代の特徴に全く当てはまらない場合や、刻印が不鮮明な場合は、偽物の可能性もあります。詳しくはこちらの記事(偽物の見分け方)をご覧ください。

オリジナルパイロットの変遷
「アビエーター(飛行士)」スタイルのサングラスにおいて、AOは絶対的なパイオニアです。
1958年に米軍の要請を受けて開発された「Flight Goggle 58(FG-58)」は、後に「Original Pilot(オリジナル・パイロット)」として知られるようになり、現在に至るまで米軍パイロットの標準装備品として採用され続けています。
このモデルの最大の特徴は、真っ直ぐな板状の「バヨネットテンプル」です。
これは、パイロットがヘルメットを被った状態でも、こめかみを圧迫せず、スムーズにサングラスを着脱できるように設計された機能美の極致です。
そして、このOriginal Pilotこそが、1969年のアポロ11号ミッションにおいて、ニール・アームストロング船長とその乗組員たちが着用し、人類初の月面着陸に立ち会ったサングラスなのです。(出典:AO Eyewear公式サイト『Our Story』)

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年代判別の鍵となるのは、やはりテンプルの刻印です。
1960年代から1980年代にかけての黄金期のモデルには、テンプル裏に「AO American Optical」や、金張りの仕様を示す「AO 1/10 12K GF」といった文字が力強く打刻されています。
しかし、1990年代以降や、製造拠点が変更された時期のものになると、刻印がプリント表記になったり、「AO Eyewear USA」といった現代的な表記に変わったりします。
また、一時期AOの軍用ラインを製造していた「Randolph Engineering(ランドルフ・エンジニアリング)」社の製品と混同されることもありますが、AO純正のヴィンテージには必ずAOのロゴが入っています。
Z87刻印とセーフティグラス
近年、タート・オプティカルなどのヴィンテージフレームが高騰する中、ファッション感度の高い層から熱烈な支持を集めているのが、AOの産業用「セーフティグラス(安全メガネ)」です。
工場や研究所で目を保護するために作られたこれらのフレームは、無骨で野暮ったいデザインが「逆に今の気分に合う」として再評価されています。
このセーフティグラスの年代を特定するうえで、避けて通れないのが「Z87」という刻印です。
これは、米国規格協会(ANSI)が定めた、アイウェアの耐衝撃性能や光学的要件に関する規格コード「ANSI Z87.1」を指します。
重要なのは、この規格が最初に制定されたのが1968年であるという事実です。つまり、フレームに「Z87」という刻印があれば、それはどんなに古く見えても1968年以降に製造されたものであると断定できるのです。

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「Z87+」の意味に注意!
2000年代以降のモデルを見分ける重要なポイントがあります。それは「+(プラス)」マークの有無です。2003年および2010年の規格改定により、より厳しい「高衝撃(High Impact)」テストをクリアした製品には「Z87+」と表記することが義務付けられました。
もし刻印が「Z87」だけであればヴィンテージ(〜2003年頃まで)の可能性が高いですが、「Z87+」となっていれば、それは比較的新しい現行品に近いモデルです。
また、ヴィンテージフレームには「Z87-2」という刻印もしばしば見られます。これは「度付きレンズ対応(Prescription)」の安全メガネフレームであることを示しており、F9800などの人気モデルによく見られる表記です。これも年代特定の補助的な材料となります。
F9800とPentaxの関係
セーフティグラスの中でも、特に「F9800」というモデルは、そのウェリントン型の形状が使いやすいとして絶大な人気を誇ります。
しかし、市場を見ていると、全く同じ形なのにブランド名が違うものがあることに気づくはずです。「AO Safety」「3M」「Pentax」……これらは一体どういう関係なのでしょうか?
実はこれ、AOの安全メガネ部門(AO Safety)の買収と売却の歴史そのものなのです。

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かつてAOの一部門であったAO Safetyは、後にAearo社に売却され、さらにそのAearo社が世界的化学メーカーである3M社に買収されました。一方で、眼鏡レンズメーカーのHOYA社もこの事業に関わり、「Pentax」ブランドで同型のフレームを販売するようになりました。
つまり、系譜としては以下のようになります。
- AO Safety / American Optical刻印:1990年代以前のオリジナルヴィンテージ。最も人気が高い。
- AOSafety (3M) 刻印:3M傘下となった過渡期のモデル。
- Pentax / HOYA刻印:現在も流通しているモデル。製造元はHOYA(Pentaxブランド)など。
形状やスペック(F9800/F9900)は基本的に同じ金型を使用しているため変わりませんが、コレクター視点での価値はやはり「AO」刻印のあるオリジナルが最も高くなります。
しかし、実用品としてガシガシ使いたいのであれば、比較的手に入りやすく状態も良いPentaxブランドのものを選ぶのも賢い選択と言えるでしょう。
JA刻印に関する誤解と真実
最後に、インターネットや古着屋の店頭でまことしやかに語られている「ある誤解」について、訂正しておきたいと思います。
セーフティグラスのブリッジ部分などに、「JA」というアルファベット2文字の刻印が見られることがあります。
これを指して、「JはJanuary(1月)の頭文字だから、これは1月製造の個体だ!」と説明しているケースを見かけますが、私が徹底的に調査した限りでは、これを製造月と断定する信頼できる資料は存在しません。

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確かに軍用品などでは日付コードが使われることがありますが、民生用や産業用の安全メガネにおいて、月単位の製造刻印を入れる合理的な理由は乏しいのです。
海外の専門フォーラムやコレクターの研究によると、この「JA」やその他の2文字コードは、特定の製造工場を示す「ファクトリーコード」、あるいは金型の識別番号、安全規格の付随コードである可能性が高いとされています。
年代を知りたいあまり、不確かな情報を信じたくなる気持ちはわかりますが、「JA = 1月製造」説には慎重になるべきです。
より確実なのは、前述した「Z87」規格の改定履歴や、ブランドロゴのデザイン変遷など、客観的な事実に基づいた判断基準を持つことです。
アメリカンオプティカルの年代判別まとめ
アメリカンオプティカルの年代判別は、まるで探偵小説の謎解きのような面白さがありますよね。
「1/10 12K GF」という刻印の輝き一つとっても、そこには大量生産と職人技が高次元で融合していた、アメリカ製造業の黄金時代のプライドが見え隠れします。
また、時代とともに変化するシールドロゴは、戦時中の緊張感から戦後の繁栄、そして現代的なスタイリッシュさへの移り変わりを静かに物語っています。
今回ご紹介した、ロゴの形状、金張りの刻印、Ful-Vue構造、そしてセーフティグラスのZ87規格といったポイントを総合的に組み合わせることで、手元のフレームが「いつ、どのような背景で作られたのか」を、かなり高い解像度で見極めることができるはずです。
もちろん、ヴィンテージの世界は奥が深く、カタログに載っていないイレギュラーな個体や、過渡期の混在仕様に出会うこともあります。
でも、それこそがヴィンテージ収集の醍醐味でもあります。
この記事が、あなたと運命の1本との出会いをサポートし、そのフレームに刻まれた歴史の重みをより深く愛でるための一助となれば幸いです。
もし判断に迷うような珍しい個体に出会ったら、信頼できるヴィンテージ眼鏡専門店でプロの意見を聞いてみるのも良い経験になるでしょう。自分だけの歴史的な1本を見つける旅、ぜひ心ゆくまで楽しんでくださいね!

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